Coyote No.57で小川洋子氏が、ニューヨークのアーティスト、ジョセフ・コーネルと、彼の障害を持つ弟の生涯をヒントに、「ことり」という物語を作ったと告白していた。
美しいコーネルの箱の作品に傾倒している私としては、コーネルにまつわる、新しい宝物を得た気持ちで、心が躍った。
「ことり」では、小鳥の小父さんと呼ばれた男と、七歳上の兄の少年時代から老年までが綴られて行く。十一歳の時、突然鳥と会話し人の言葉を失ってしまった兄を、弟である小父さんだけは理解する。世界中でたった二人だけが、人間界で心を通わせることができるのだ。
両親が亡くなり、コーネルを想定しているであろう小父さんは、作中アーティストではなく、金属加工会社のゲストハウスの管理人として地味なルーティンワークをこなし生計を立てている。兄はただずっと家で過ごし、毎週水曜日に青空商店で棒付きキャンディーを一本買い、小鳥の模様の包装紙を集めて小鳥のブローチを作り、鳥と会話する。
年に一度、旅行の計画をして、荷造りだけして終えるのが、ふたりの唯一のイベントだ。
他との関わりを極力避ける二人の暮らしを、時としてさざなみが押し寄せてくる・・
何かを大切に守りながら、生きてゆくのは、誰しも困難だ。
他者とうまく折合えない人なら、なおさら。
「ことり」は、コーネルを知っていても知らなくても、
まるで美しい小鳥のブローチのようにいとおしい。
そして、あなたが生きるのが、とても不器用な人間なら、
なおさら感応できる愛に溢れた物語だ。